最強プロレスラー殺人事件1

登場人物
* 藤田直孝(フジタ)
* 藤田尚子(フジタの妻)
* 十津川警部
nakanishivsnagata.jpg * 亀井刑事
* 西本刑事
* 日下刑事
* 北条早苗刑事
* 本多捜査一課長
* 三上刑事部長


第一章 SGS決勝戦


  警視庁捜査一課の宿直室で、亀井刑事は、テレビのジャパン・プロレス中継を観ていた。まだ番組は始ったばかりで、後半に、スーパーグレート・シリーズ決勝戦が行なわれる。 「スーパーグレート・シリーズ(通称SGS)」とは、シングルマッチで参加選手が総当りのリーグ戦を行ない、その年のジャパン・プロレスNo.1男を決める人気シリーズだ。
  一緒に西本刑事も、カップヌードルを啜りながらみていた。二人ともプロレス好きだ。
  亀井刑事は、力道山から始る日本のプロレスの生き字引みたいな人間で、デストロイヤーとの試合やシャープ兄弟との闘いを、酒が入るとよく、西本たちに話した。
  西本や日下はその後の猪木、馬場の世代で、亀井の話は何かピンと来ていなかった。
「カメさん、お客さんだよ」
  新聞に目を通していた十津川警部が宿直室に声をかけた
  だれだろう、と亀井が、まだテレビを見たそうに、宿直室から出てきた。

  年齢にして27〜29歳のショートカットの女性が、清楚なワンピースを着て入口に立っていた。 空いてる椅子に座らせて、亀井は
「なんでしょうか、私が亀井ですが。」
  女性は、やや青ざめた表情で、ハンドバッグから、封筒を取り出した。 中を開けてみると、脅迫状のようだ、
「フジタは今日、死ぬ。
       マスカラス」

  とワープロかパソコンで打った、縦書きの文字が並んでいた。
「これは、いつもらったのですか?」
  封筒を奪い取るように、見ながら亀井は聞いた。
  封筒には、宛名が
    東京都文京区棚名0-000
      藤田 尚子 様

  と、これまたパソコンで打ってある、送り主の名前は
          マスカラス
  とだけ、裏に打ってあった。
住所を見て、亀井は自分の家の近所であることを知った。おそらく妻の友だちつながりで、警視庁の刑事であることを知り、夜遅くに訪ねてきたんだ。と納得した。

「私は、プロレスラーの藤田 直孝の妻です。
  この手紙が今日の昼頃、郵便受けに入っていました。切手は貼ってありませんでした。」
  もうすぐテレビに出てくるフジタ選手の奥さんらしい事がわかると、テレビ観戦をしていた西本が来た。
  「マスカラスはメキシコの英雄プロレスラーです。向こうではルチャ・リブレというんですが、華麗な空中殺法が得意で、日本のタイガーマスクはルチャ・リブレで修業して、日本にデビューしたのです。」と西本が解説してくれた。
尚子は黙ってうなずいていた。
「もうすぐ御主人がテレビにでますよ。」
  亀井がそういうと、藤田選手の妻である、尚子は
「主人の試合は恐くてみられません。いつも、録画して、帰宅した主人と一緒に見ます。」

  亀井は、なるほど、一般のファンは、勝った、負けたで騒いでいるが、当人やその家族にとっては寿命の縮む思いなんだな、と改めて、プロ選手のシビアさを感じていた。
「奥さん、何か身分を証明するモノはありませんか?」
  十津川が冷静に声をかけた。
  女性は免許証をバッグから取り出して、机の上に置いた。どうやら、本物らしい。
「この手のイヤガラせは、人気選手なら良くある事ではないですか?」
  亀井が聞いた。
「でも、この手紙は違うんです。」
  藤田選手の妻、尚子が真剣な目で言った。
「どこが違うのですか?」
  尚子は、すこし困りながら
「もうすぐフジタがテレビに出ます。それを見てもらうと、分かりやすいのですが----。」
  と、なんだか要領を得ない答えだ。
「はぁ?プロレスを見るんですか?それに奥さんは見たくないのでは、」
  亀井たちがテレビを見ていた事を知ってるような、その言い方は、案に刑事が仕事をサボってテレビを見ている、と言ってるようで、イヤな感じがした。
  十津川が笑って、
「どうぞ、奥の部屋へ」と尚子を宿直室へ招いた。亀井と西本も従った。

  ちょうど、スーパーグレート・シリーズ決勝戦が始るところだった。亀井と西本にしてみれば、グッドタイミングだった。
  リングアナウンサーが青コーナーの選手を先にコールした。
場内が暗転し、出場選手のテーマソングが響く中、スーパーグレート・シリーズの決勝戦まで上がってきた、ベテランの猪山(いやま)選手が入場した。
  全8戦の総当たり戦を6勝2敗で勝ち上がってきた。キャリア15年のベテランだがイヤマボムを必殺技に持つ48歳、180cm、106kgのカラダは衰えを知らないかのようだ。
  猪山がリングに上がると、場内の照明が変わった、音楽も流行りのドラッグミュージック風のけだるさから一転ラップミュージックに変わり、派手なガウンと、顔を派手にペイントしたレスラーが赤コーナーのコーナーポストに立った。
  観客は誰だ?という疑問とその華やかなコスチュームに大歓声を上げた。
  テレビを見ている、十津川は何がなんだか判らない
  「赤コーナー、スーパーグレート・シリーズ、成績7勝1敗、スーパー フ・ジ・タ!!」
  とリングアナがコールした。場内は大歓声と色とりどりのテープが飛び交う!
コーナーを降りたフジタはガウンを脱ぎ捨て、ファイテイング・スタイルをとる。それまでの黒のショートタイツスタイルが、一転して真っ赤なロングタイツになり、両手には甲の部分に薄いラバーが付いたハーフグローブをはめ、肘と膝には黒いサポーターが着けられていた。
「フジタ選手は、今日この決勝戦から、ミルマスカラスにように華麗に宙を舞い、実践空手で鍛えた剛腕で敵をKOする、全く新しいファイティングスタイルで戦います」
  リングアナは、既に試合の結果がついたように、新しいフジタを場内に紹介する。相手の、猪山(いやま)は明らかに不満気だ。
第二章 スーパーフジタ


  警視庁の宿直室は、テレビのボリュームにつられるように、別事件で待機中の北条刑事や、本多課長 まで集まってきた、ちょつとしたラッシュだ。
「奥さん、これが御主人ですか?」
  亀井は尚子に聞いた。
  コクりとうなづいて、尚子はテレビから視線を放さなかった。
「これで、何が判るんですか?」
  十津川が聞いた。
  尚子は、黙って答えない。その間に試合が始った。

  待ち切れないように、猪山(いやま)がフジタをヘッドロックに捕らえた。強烈な締めなのか、フジタの痛がる声がテレビを通して聞こえてくる。
  振りほどくように、フジタが猪山のカラダをロープへ振ろうとするが 、猪山はヘッドロックを外さない。そのままグランドへ移行しても、 猪山はヘッドロックをはずさない。
  フジタが起き上がりながら、バックドロップで猪山を後ろへ投げる!歓声が沸く。
  それでも猪山はヘッドロックを外さない。

  テレビを見ながら十津川も、尚子に聞いた。
「奥さん、思い付く事は全部話して下さい。テレビをみても、我々はプロレスの事は詳しくないですから。」
  尚子が、ようやく口を開いた。
「このフジタの、コスチュームはミルマスカラスのそれをイメージして作ったモノです。」
  亀井はそれで?何?という気持ちで、聞きながらテレビの画面を見ていた。
「手紙の送り主、マスカラス と関係があるのですか?」
「マスカラスのイメージでデザインしたのは私です。」
  尚子が少し、焦れたように言った。
「すると、手紙の主は、その事を知ってたのですか?」
  十津川が聞く
「それが、不思議なんです。どうして知ってるのか。」
「御主人が、そのコスチュームを着るのは今日が始めてですか?」
  亀井が口をはさむと
「そうです。仮縫いから完成まで、全部、知り合いの縫製業者に頼んだので、   普通の人は知らないはずです。」
「御主人が、どこかで喋ったんじゃないですか。」
  尚子は、怒るように
「このイメージチエンジは、誰にも秘密です。カジタさんやムラノさんにも内緒で進めたプランです。」
「そのカジタさんとムラノさんというのは?」
  プロレスに全然興味のない十津川が聞くと、詳しい西本が
「このフジタ選手とカジタ選手、ムラノ選手はジャパン・プロレスの3大スターレスラーで、 現在のジャパン・プロレス人気はこの三人によるところが大なんです。」
  十津川はふ〜ん。とうなづいて、テレビの画面に視線を移した。

第三章 恐怖の毒霧


  試合は、20分が過ぎていた。フジタはコーナーポストやリングロープを使った空中殺法で猪山を翻弄するが、猪山もベテランの味で、リング外で椅子を使った反則攻撃などを折り込み、フジタにペースを掴ませない。
  試合時間が25分を過ぎた。高さ80cmあるリングの端から相手をパワーボムの要領で、リング下に叩きつける猪山の得意技"断崖式イヤマボム"がフジタに炸裂した。場内に悲鳴が轟く。
  生身の人間ならこれだけで全身骨折だ。
さすがに鍛えられたレスラー、フジタは息も絶え絶えだが、立ち上がる。そこへ、猪山がもう一度、とどめのイヤマボムを放つためにリング下へ降りてきた。
  フジタのピンチだ。

  テレビを見ていた尚子は耐えられず、部屋を出た。
  フジタを知らない独身時代は、家族でプロレス番組を見ていても、煎餅でもかじりながら見られたが、結婚して、
  夫婦となってみると、衆人観衆の中で、ふらふらになりながら戦うフジタの姿はとても見られない。
  部屋を出た十津川は、尚子に
  「大丈夫ですか?」と声をかけ、
  「まず、試合中に、御主人に何かある心配はないでしょう。
  それに御主人は強いから、一般人が殴りかかることもないでしょう。」
  と言った。
「でも、マスカラスなんて、今のプロレスファンは知らない名前です。私も、主人の持っていた古い雑誌で始めて知ったくらいですから。」
  尚子はさらに十津川に食って掛かるようにいった。
「しかし、現実に御主人は元気に試合をしている。警察としても、手のだしようがないです。」
「でも、今日死ぬと書いてあるんですよ。脅迫状に。」
  十津川は尚子が何か隠している事を感じたが、まだ何も事件が起きていない限り、どうすることも出来ない。

  猪山が、フラフラのフジタを前屈みの姿勢にさせて、両腕を背中越しに回して、フジタのへその前でロックした。パワーボムの体勢だ。
  このまま、思いきりフジタのカラダを逆さに持ち上げて、後頭部をリング下の硬い床に叩きつければ、いかに頑丈なフジタでも脳震盪KOだ。
  ペイントしてイメージチエンジのフジタも、ペイントははげて、悲愴な顔だが、目の輝きは衰えていない。
  そのまま、フジタのカラダが逆さに持ち上がり、猪山の顔にフジタのペイントがはげた顔が遭う瞬間、フジタは口から毒霧を噴射した。
  見事なタイミングに、猪山はマトモに浴びた。リングサイドの客にも霧が飛び散った。視界を失った猪山はあわててグリップした両手を放してしまった。
  尻から落ちたフジタは、軽いダメージで済んだ。
  ところが、フジタはその場で、のどを押さえてのたうち回り始めた。
    毒霧をかけられた猪山も、のどを押さえて苦しみだした。
あわてて降りてきレフリーと、セコンドの選手達は遠巻きに二人が苦しむ姿を見ているしかなかった。
  やがて、フジタが動かなくなった。猪山はまだ苦しんでいる。
  試合中止のゴングがなり、二人はタンカで医務室へ運ばれた。

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